No.94 第十章 虚を抜けて

| 2011年6月30日

No.94らんらんと光る目がこちらを見ていた。よく見るとそれは犬だった! 一際大きな白い身体は地べたに引っ付くように動かないでいた。僧は一瞬驚いたが、そのままゆっくり近寄り握飯をくわえさせた。犬はぶるっと立ち上がると握飯 […]

No.93 第十章 虚を抜けて

| 2011年6月28日

No.93腕をねじあげていた僧が侍に言った。「一つ食え!」そう言われ、我に返った侍はわき目もふらず握飯をガツガツとたいらげた。「貴様、ぜんぜん食っておらんな?それでは人は殺せん。なぜ人質など取り盗みに及んだ?事情があるな […]

No.92 第十章 虚を抜けて

| 2011年6月23日

No.92その時、犬治郎は一瞬わけがわからなくなった。自分の手首を思いっきりつかまれたからだ。 見ていた映像は己の事実となっていた!子供の喉笛に突きつけていた刀は屈強な僧に奪われていた。虚しく潰された握り飯の感覚までがな […]

No.91 第十章 虚を抜けて

| 2011年6月21日

侍は薄暗い農家の納屋から太刀を突き出した。長身の侍の足下、子供は恐怖から立ったまま土間に小便を漏らしていた。侍は要求が通らなければその場で刺し殺す鬼気迫る状況が、何処かから切り出されたシネマスコープのように犬治郎らの目の […]

No.90 第十章 虚を抜けて

| 2011年6月20日

白象の行く手に無数の光の半球が、その一つ一つに同じ半球同士を映り込ませていた。無限に映し込む光の半球が強盗の一部始終の悪事を暴露していた。 再び誰もいない桟敷席から声がした。「俺は強盗して追い詰められ、子供を人質に納屋に […]

No.89 第九章 千年紀

| 2011年6月18日

No.89「千年紀とは魂の千年でもっとも自分の犯した重い罪を推し量る儀式だ。」白象が言った。「なんと!悪を自ら乗り越える事なのか?」犬治郎が立ち上がり言った。「そうだ、自分の犯す過ちを乗り越えられてはじめて世界も千年紀を […]

No.88第九章 千年紀

| 2011年6月16日

No.88「すでに俺たちはすべてお見通しらしい。この状態でな!」犬治郎は突然そう言った。すると長老が口を開いた。「ああ、その通りじゃ、起こっている事がすべてお見通しじゃ。」 「ブヒ、おい、今、強盗がここにやって来るぞ!幼 […]

No.87 第九章 千年紀

| 2011年6月14日

No.87「暗黒が在る…?」犬治郎が言った。「すべて概念のまま存在している。」白象の言葉が暗闇に響いた。 しばらくすると心地良い冷たい気流が象の背に感じられてきた。地平線が僅かにウルトラマリンブルーに明けてきた。 「さあ […]

No.86 第九章 千年紀

| 2011年6月9日

No.86真っ暗闇を進むとあたりはますます玄となった。玄とは黒のまた黒のことだ。辺り一帯の見当が付かず鼻をつままれてもまったく分からない闇となった。 側にいる土ブタも長老も鹿男も犬治郎もお互いまったく薄っすらとも見えない […]

No.85 第九章 千年紀

| 2011年6月6日

「これから俺が行くところは予言者の世界だ。まだ起こらぬ事が目の前に起こるじゃろう。幽閉された者の観る世界は恐ろしいぞ。」白い象は犬治郎らを乗せてゆっくり立ち上がった。 「おお、そう言えるのは浦島太郎お一人じゃ、おぬしは浦 […]