天真爛漫へようこそ。

霊性の本格派アフリカ木琴奏者チャンシーの芸術的ブログ小説です。低炭素で面白い、自然な難解、かつ天真爛漫な物語。

第七章 信じようと信じまいと No.110

Posted By on 2013年9月23日

No.110
延命冠者の舞は、松風大人にある思いをもたらした。
真に無いものへの直観と言うべきものである。

松風大人は、ひとり呆然と呟いた。
「…在るとばかりのものが、何も無いとはどうしたことだ?」
高く無窮に立ち上がる茫漠とした空だけではない。清浄なる無音の他は何もはじめから無かったのか…?

問を超えた、ある直接の視座が松風大人の心中を開いた。
ふたたび、松風大人はうわ言のように低く呟いた。
「驚きだ…見えず、感じられもしないが在るとばかり思っていたものまで、まったく何も無いとは…。
魂すら、夢幻の如くか!?
…………。」

如何程の時が流れたのか…。
無音に僅かな兆しが起った。微かな光は
みるみる辺りの黎明を破り、日はぐんと昇って来た。
この上なく清浄な光の放射は、あらゆるものの隅々までも差込み、無償の愛の真実を知らしめていた。光の五彩の矢はすべてを射尽くして、そのもの自からは何ものでもなかった。

松風大人は、昇る太陽を直視した。
目前の輝きは、自分の心の中心を射た!
真を射抜く輝ける光は、不安定に黒く反転し、くるくると右に尾を引く独特の動きとなり、巴の印となって生きてうごめいた。
いのちの神秘が背後から渦巻いて、松風大人になだれ込んだ。

「この変転は何ということだ!?今、無いとばかりのものが、私に入り、強烈に輝き始めたぞ…!」呆気にとられた松風大人は、真反対の光の実相に、放心して独り立ち尽くしていた。

潮風を受けて、断崖の上の斜面にある五葉の松は少しくねりながら、そのすくっと伸び上がった幹の上方には見事に枝をひろげていた。鋭い針の無数の葉は、枝の、ある一点を起点にそれぞれが放射し、濃い緑は揺るぎない密度で空間に眩しさを射てた。
ところが、その、ある枝先は桜色の輝きをもって変化した。
そこに、やわらかな魂が宿ったのだ。

第七章 信じようと信じまいと No.109

Posted By on 2013年7月28日

No.109
「イタチめ!岩を伝わって逃げたな!大人、少々お待ち下さい。」
そう言うと鴫童子は、瞬く間に鼬鼠の後を追い、岩に消えた。
「シギよ、深追いは禁物だぞ!」大人の声が虚空に響いた。
大きく旋回して、宙の人魂の一つがするりと延命冠者の背に入った。

「…これは、どうした…ことだ?」
倒れていた延命冠者が、息を吹き返した。
「おおっ、正気に戻られたか。」
茫然自失ながらも延命冠者は立ち上がると、一周りゆっくり見回し言った。
「…目出度いかな、目出度いかな。
我らの魂魄が幽界を彷徨っておるところを、あなた様に救われた…。
お礼に一つ極上の舞を致しましょうぞ。」

白い砂地に、摺り足に輪を描き広げながら、延命冠者はそこに不思議な舞を舞った…。
足先が進むにしたがい、次第にその姿は透明になった。
やがて舞も延命冠者も見えなくなると、白砂の上の跡だけが残ったが、それも掃き清められるように無くなると、風が遠くに渡った…。

「見事に何も無い…。」
そこには清浄なる無音があるばかりだった。
松風大人は、茫洋たる虚空に無際限のいのちを見る思いがし、おもわず再び感嘆の息を洩らした。
「むむっ、…見事に何も無い。」

第七章 信じようと信じまいと No.108

Posted By on 2013年7月7日

No.108
「きさまの夢などどうでもよいわ!すぐに魂を返し、俺を放せば許してやる。
さもないと、きさまらはここで魂の重罪人となるぞ!」悔しまぎれに延命冠者が叫んだ。
「重罪人?どういうことだ?」
「俺の大切な魂を性懲りも無く横取りし、盗んだからだ!」
「わしらは、盗られた魂を解放したまでだ。」
「うるさい!すぐに術を解け!四の五の言わずに人魂を置いて行けば見逃してやる。
さもなくば、きさまらもここで終わりだ!俺が取って食ってやる。」
怒り狂った延命冠者は、片手で腰の小太刀を抜いた。

鴫童子は大人の前に立ちはだかり、両手を広げて言った。
「松風大人、この男は延命冠者ではありません!延命冠者は魂魄を乗っ取られて宙におります、
今しがたの夢に知らされました。
この男は延命冠者と従者を襲い、まんまと延命冠者に成りすました盗賊の鼬鼠(イタチ)です!」

「ええい!小僧、きさまから血祭りだ!」
そう言うと、延命冠者の鼬鼠はシギに襲い掛かった。
鴫童子は素早く体を交わし、背に鋭い一撃をくわえた。

突然「ウギャー!」と野獣のような叫び声を上げ、
延命冠者の臍のあたりから抜け出た鼬鼠は、一目散に祠の方向に突っ走ると、岩の中にかき消えた。

第七章 信じようと信じまいと No.107

Posted By on 2013年6月30日

No.107
二つの滝から発する轟音は互いに打ち消し合い、無とも思われる静寂が生じた。
「む、どこに消えた?」延命冠者は周りを見渡したがまったく何の気配もない。すると、突然に後ろから襟を掴まれた。
「延命冠者殿、実はわしも、多少の無頼漢でな、この人魂、貰うぞ。」
声と同時に、温存していた三つの人魂も、シギの魂と共に延命冠者の背から引き抜かれ、ぬらりと宙に浮かび出た。
「死に作法など無いのなら、ついでに、おぬしの魂も抜いておくか?」松風大人は延命冠者に顔を引っ付け笑った。
「ふざけるな!きさま、何者だ?!」
「さまよえるただの年寄りだよ。少しく悪漢だがな…。」
松風大人は延命冠者を、後ろ手におもいっきりねじ上げた。
「いのちの諸相を舐めて掛かるととんでもないぞ!」
とん、と押すと、そのままねじ上げられた腕は延命冠者の背に張り付いてしまった。
「いたたた、俺に…、こんなことをすれば、きさま、ただでは済まんぞ!あたた…。」
延命冠者は堪えきれず大声を上げた。

突然に滝の轟音が戻った。
「大人!?…私はどうしていたのでしょう?」鴫童子が息を吹き返した。
「おお、シギよ、戻ったか。」
「今しがた、不思議な夢をみていました。」

第七章 信じようと信じまいと No.106

Posted By on 2013年6月23日

No.106
「どのような風前の灯の魂にも延命の策はある。ここに来る者は、魂の終わる者だが、命に未練が有るなら、人の魂を食せばよい。それでは呪師走りの儀で勝負だ。」延命冠者の甲高い声が木霊した。
「まてまて、わしには未練はない。」
「いや、あるはずだ。貴公、それで終わっていいわけが無い。」
「お節介な。」
「ここに来るからには、貴公らの短い一生もすでに終わろうとしているのだぞ?成し遂げれぬことがあるだろう?」
「初めがあれば終わりもある。成し遂げるなどこだわらずとも、事は自ずからになるものだ。」
そうそうと松風大人はそこを立ち去ろうとした。

「こいつは、手ごわい術を使ってきたな。」
そう言うと、やおら延命冠者は何気なく小走りに近づき、鴫童子の背に手を突っ込み、ひょいと魂を抜き取ってしまった。
「さあ、貴公どうする?これはまずは、人質ということだ。良質の魂などは、そうそうに無いからな、かかか。ここから先には行けぬぞ。」

「死の番人とは、どうして、とんでもない無頼漢だな。」
尻尾を延命冠者に握られた魂は、ふわりふわりと浮遊した。
「死に、作法など無い。」そう言うと襟元から背に魂を押し込めた。
「それでは仕方ない、お望みのお相手いたそうか…。」声の終わらぬうちに、松風大人はそこから音もなく消えた。

第七章 信じようと信じまいと No.105

Posted By on 2013年6月16日

No.105
其処は、二つの滝を一望できる絶好の位置にあった。
東屋前の大岩には、ごく小さな祠が載っていた。
中にはべったりと「延命冠者」と書かれた札が張り付いていた。

「此処にこの様な祠が?」
シギは首をひねった。
「うぬ、おもしろい奴が此処にはおるようじゃ…。」
「延命冠者とは?」
松風大人は祠を覗き込んで札をしげしげと見た。
「…?はて。」
すると、其処から笑い声がした。
「むふ、ふ、ふ、…よくここに来たな。」
祠の声が滝の音に交じり木霊した。
「誰だ?」松風大人は祠に問い返した。
「俺は、白い滝所縁の番人、延命冠者だ。」
祠から張りのある甲高い声がした。
「すると、おぬし呪術師か。」シギが声をあげた。
「おう!小僧分かるか。」
「俺のは白呪術だ。俺との勝負に勝てば、場合に寄っては貴公らの魂の延命をいたそう。」
松風大人とシギの前に、笑みを浮かべた若い男が忽然と現れて言った。
「勝負?なんの勝負だ?」シギが言った。
「とぼけるな、呪師の勝負だ。貴公らもここまで来るからには呪術師であろう?」
「いや、大人は高徳の主、呪術なら私がお相手しよう!私は鴫童子と云う者だ。」
「貴公はまだ童子だが、まあよい。魂は良質そうだ…。
しかし俺に負けたら、この様に、貴公らの魂を貰うぞ。」
ぬらりと、延命冠者の背の襟から人魂が二三飛び出し頭上を浮遊した。

「生きた良質の魂を食せば二千年延命できる。どのみち人の一生は、しごく短い。
正直、何かするなどの余裕すら無い。何もせぬうちに死ぬのは怖いだろう?」
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第七章 信じようと信じまいと No.104

Posted By on 2013年6月9日

No.104
「シギよ、いよいよ滝に出たな!」
松風大人は、後を歩く供の鴫童子に言った。
ふと、天空を降り仰ぐと、遠くに瑞雲が渦を巻いた。

「あの左手に見えるものは何でしょう?私には、こちらも命本来の滝に見えます。二つの滝が出会っています!」
こちらにも、負けず劣らずの滝が、豪快に白い房のような水塊を無数に落下させていた。滝の合間からは、濃緑の水柱が柔らかさを秘めて巨大に立ち上がっている。軽やかに滑ってくる泡沫の、幾千万の鈴音は鳴り止まず、かえって、辺りを深々と神秘の無音にさせていた。

「ほう!これは…。ますます驚きじゃ!滝は二つ在る。」
松風大人は、呆然と其処に立ち、口から細く気を解き放った。
大人と童子の来た深山幽谷は、そこで深い霧を抜けると一気に開けた…。中空には、幾多の磐上をほとばしる飛沫に、壮大な虹が掛かっていた。
松風大人は、しばし天空を仰いで望気して言った。
「ぷふぅ〜、やはりここは清々な気に充ちておる。しかし、誰も来ぬここまで、細々と切り拓かれた道が在るとは、まったく不可解なことじゃ…。」
細い石段は、両方の滝のいちばん良く見える東屋まで、整然と巌の洞門を抜け続いていた。
「シギよ、彼処の東屋で一休みだ。」

第七章 信じようと信じまいと No.103

Posted By on 2013年6月3日

No.103
ドーナッツの穴から自らひっくり返る様に、アマナの”私”は完全にそのままひっくり返った。サナギのごとく”私”のすべての再構成が始まった。今迄とは思いも寄らない仕方で、命本来の奔出がアマナから”私”の宇宙を開いたのだ。阿頼耶識の種子の世界には思わぬ扉があった。
命本来も生きていたのだ…!

アマナの”私”の一つで在る翁は、「松風大人」という五葉の松の顕現体であった…。
ある”私”は天苗である。また、ある”私”は、因果に翻弄され、ついには人をあやめた強盗でもあった。また、ある”私”は、星辰に思索をめぐらすブリストル コーンパインの友人、物言わぬ古樹でもあった。また、ある”私”は、一生を、ただ岩盤を向う側にくり貫くためにだけ生きた乞食聖でもあったのである。またあるときは、しぶとく厄災災禍に生き抜く、土ブタと云う半人半動物精霊の”私”でもあった。
そして、その総体は、異相に於いてはカトリの神霊体でもあるのだ。

それら命本来の奔流に輝く”私”の泡沫は、葡萄房の如くに、付かず離れず結合しあい、滝の落下を目前にした…。

滝は目の前にどうどうと降り下りていた…。
飛び散る無数の白い泡沫は円型を描きながら、其々の世界を形づくって落ちて行く。
その背後には、崩落する藤色の命本来が、微塵も動かぬ水塊として轟々と落下し続けているのだ!
辺り広大な一帯に、きらきらと光る微粒子が、優雅な綺羅星の香のごとく、さらに細かく細かく降り注いでいる。

第七章 信じようと信じまいと No.102

Posted By on 2013年5月31日

No.102

暗闇に四十九日が過ぎた。
紐状の輪にそれぞれの形を震わす奇異な星々が、昼も夜もなく無数に天空に出現した。その星々は人々を魅了すると同時に不安にさせた。

五人脚の神が顕れた。五人脚の神とは隠れ神で、横に脚が五人分在るが神格は一人の言霊神だった。人類に出会うのは始めてである。その奇怪な姿を人前に見せたことは今まで一度も無かった。
五人脚の神の言霊の羅列は、あらゆる予言者としての役を帯びていた。
その奇怪な姿を読み取る者は、熟達した光の呪術師であった。
真意を読み、また、見るものに左右されぬ者でもあった…。

こうして、アマナの命本来は光の祭司として、ここに実行されたのである。

予言/1

「すんみせち」
16 “純粋、改革は始まっている、イントロダクション、”
象意 9、1

この様に、
神は五人脚の奇怪な姿を見せた。
言霊は、「寸見せ致」「蘇ん魅せ智」と読める。
「究極を垣間見せる」、「蘇りの鮮やかな原初の力、知恵」、と読める。
解は16番。キーは、純粋、変化の始まり、導入部。

象意の因、現状は9、昇りつめて先が無い → 象意の果、未来は1、存在するが形の無い状態。
八方は塞がれてエネルギーは自ずと自浄する。

熟達した光の祭司の読む、奇怪な五人脚の神の言霊は、上記のものであった。

恐らく”私”というものは、統合されてはいるものの、開かれた状態では無い。
しかし、”私”とは閉じられながらも、冥々と続く連続体で、本来開かれるものだ。命本来とは開かれている!

第七章 信じようと信じまいと No.101

Posted By on 2013年5月4日

No.101

祝祭の動きが始まる。

「一体何の祝祭か?」

「光の祝祭じゃ、五万年紀にもなると、命本来も老いる訳じゃ。

老いは闇じゃ、ところが、命本来は、老い闇を経て、突如生まれ変わる訳じゃ。

ここに何もかも忘れて闇に祝い、光の新たな始まりを祝すのじゃ。五万年紀に起こる荘厳の祝祭じゃ!」

白い髭を撫でながら翁が言った。

「”内陣神楽”を覚えておろう、天苗よ。命本来はそなたらに託されておる。」

アマナは、まざまざとその光景を思い出した。

冷え冷えとした初冬の宵闇、静まりかえる杜の前庭に明明と松明が焚かれ、その火の弾ける音が記憶の全てを蘇らせてきた。結界された神域に神職の子等数名を加え、幼き弟と共に”内陣神楽”を舞ったのを!

命本来なる光の祝祭は、この時己の内に既に起こっていた…。

太鼓と笛の妙なる音に冷たい気は、清しさを孕み、凛とし、心根を落ち着かせる。見えない荘厳が彼方より染み入るように降り掛かった…。

無心の舞いは、仄暗い神域の内陣を開き、内奥の神鏡を閃光で射抜いたのだ。光は十六方悉くに及んだ。

光の祭司とは、何ものをも読み、実体を見抜くものでもあった…。

 

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