Posted By chancey on 2012年5月16日
No.52
ジョロボは木琴を弾いた。これから起こることの前奏曲というべきか、むしろ、予兆に満ちた黄泉への奏上というべきか。静かに流れるエレジー風の調べに湖に何かが行き渡るのが見えた。それは普段は見えぬ魂の飛行の軌跡だった。無数の軌跡はさざなみのように木琴の調べに震えていた。
「ジョロボ、貴様の妙なる調べに死者の魂は感極まったようだぞ。見ろ、オパールのような色を!生きているうちには、だれも目の前の現実にしか反応できぬ人生の、あれが軌跡だ。」コントンボリが言った。
「あの光は人の人生か!その軌跡が光っておるのか…。」長老は嘆息した。
「美しいものだ…、苦しみも喜びも、善も悪もあのように尾を引くとな。」白い象が言った。
「人は死んでも軌跡は残ってるのですね。」アサビコが言った。
「そうだ、この事実を貴様達人間は知らん。」鼻くそをほじりながらコントンボリは身を反らせた。
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Posted By chancey on 2012年5月12日
No.51
巨大な象の歩行は意外な速さで、砂漠のライオンの背と呼ぶ三つの丘を、悠々と見えながら半日で越えた。
真夜中に地平に卵のような月の出の気配を見ると、その方角に曵かれるかのごとく、白い象は向きを変えた…。月が地平から顔を出しはじめた時、オパールの輝きのようにもう一つの月が、下に分離していった。
「見ろ!幻の湖が現れたぞ、あれだ!」白象が言った。
「神秘的な色だ…。」アサビコは、茫然と二つの月を象の背から眺めた。
「見たこともない美しい光景じゃ。長生きはするものじゃわい。ははは。」長老は皺だらけの細い目をより細めて言った。
「鏡のようだ…。」コンガラがつぶやいた。
「貴様ら、あの湖に何があるか知らんからそんな呑気なことが言えるのだ。まあすぐ分かるだろうよ。」コントンボリはうそぶくように、顎に手を当て神妙な顔をした。
月は上下へと、みるみる分離していった。
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Posted By chancey on 2012年5月10日
No.50
アサビコの一行はコントンボリを先頭に、次の日には白い象の国を通過した、ここで象の王から移動する幻の湖の位置を聞いた。
白い象の王は自らの背に一行を乗せて水先案内しようと言ってくれた。巨大な逆さバオバブの林立する地帯を横目に、三重塔の屋根ほどの高さも在る巨象の背に揺られ、アサビコらは砂漠に入った。
「これは絶景じゃわい!だが、この辺りに人は住んでおらん。昔、ミタクアという町があったが今はもう無い、何処かに町ごと消えたと聞いた。何度かワシは来たことがあるが、湖など無いはずじゃ。」長老は眺めすかして言った。
象の王はこう言った、
「ははは、人間には分かるまい。日暮れてライオンの背を三つ越したら、月の後を追う。そこに幻の湖があるはずだ。ミタクアはあるとき黄泉に埋没した。」
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Posted By chancey on 2012年5月4日
大賢者 第三章 黄泉からの帰還 No.49
アサビコはアマナから貰った袋を握りしめた。もしアマナが本当に姉だとしたら、なんと云う数奇な運命なのだろう。アサビコは居ても立ってもいられない気持ちになった。人の運命は、何者かが決定づけているのだろうか?
「おい、アサビコ君、人生のお悩み中悪いが、のんびりもしていられない。黄泉の入り口迄まだまだだ、幻の湖を渡らなければならない!君たちを置いて行くのは簡単だが、俺にしても使命もまっとうしなければ、ボーリの眷属として面目も無い。
出発するぞ!」
コントンボリは、げんきんにも、チョコで元気いっぱいになっていた。
「コントンボリよ、その意気だ。アサビコ、ひとまずもこの危険な黄泉の旅から戻らねば、何も始まらずに終わりじゃ。アントワーヌやジジらの命が、すべてお前さんに掛かっている!急ごう、死の国黄泉へ。」長老も立ち上がった。
「幻の湖?このサバンナと砂漠にか?」
木琴を担いだジョロボは目玉を丸くして苦笑いした。
「そのとおり、君たち庶民はそこを通過せねば黄泉には入れぬ。入り口は俺しかわからぬ。まずは、白い象の国から、古い逆さバオバブを抜ける道のりを急がねばならない。」
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Posted By chancey on 2012年5月3日
No.48
「ところでアサビコ、お前さん、どこの国から来たのじゃ?」サラガウラが聞いた。
「話せば数奇なことながら姉ともども人買いに買われ、その手をのがれのがれ姉とも離ればなれとなり、、船を乗り継ぎ、俺独りついにこのアフリカにやって来ました。俺の祖国は東洋の日本という国です。」
「ほう、アマナもはっきりと顔は見せぬが東洋人のようにも見える…。ひょっとするとお前さんの姉かもしれぬぞ。いや、ワシはごく側で、お前さんの様な遠い異国の言葉を聞いた迄のこと、期待はしない方がよい。
それはさておき、もう出発せねばなるまいの。」
「え!アマナが?…姉は…、天苗です!天苗、アマナ!…。姉さん!?
俺は、ここまで三年かかった、それに恐ろしく遠い旅路でした。そうであれば…、どんなにか…姉さん…、そんなことが有るだろうか?」
「残念じゃが、アマナは目も見えぬし、声もほとんど出ない。過去は誰も知らない。それに昔の記憶も無いらしい。もしお前さんの姉であったとしても、分かるかどうか難しいことじゃな。」
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Posted By chancey on 2012年5月1日
No.47
アサビコは笑いながら一欠片折ると、コントンボリの口に放り込んだ。
「アサビコ君!きみはなんと優しい少年だろう!ムニョムニョ。ああ、至福とはこのことよ!ムニュムニュ。」コントンボリは、なれなれしくアサビコの肩に手を回し、身を反らせた。
「木琴を弾こう。」ジョロボは、ふわふわとした青い光が近づいてくるのを見て言った。たまに飛び上がった光はくるくると廻った。
すぐ近く迄きて、光の行列はしばし留まり、演奏に聴き入るように、止まっては、またくるくると廻った。
「こんばんわ。いつ聴いても魂を奪われる音色ですね。お陰さまで、花嫁の良い門出となりました。こんな幸先の良い出会いがあるとはうれしいかぎりです。それに今夜は吉日で、いい月夜で、私どもは心を洗われる思いです。。黄泉に向かわれるなら、お土産を付けましょう。」青い光は、そう言うと、くるくるとまた廻った。行列の立ち去った後には、葉っぱに包まれたフフという餅が人数分在った。
「祝い餅じゃ、有難い!これが在ればいいぞ。」長老が言った。
「どうして?サラガウラ」アサビコが聞き返した。
「ははは、狐の祝い餅は腹持ちがいい、七日は持つからじゃ。」
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Posted By chancey on 2012年4月28日
No.46
「コントンボリ、黄泉の入り口というのはまだ遠いのか?」木琴弾きのジョロボが言った。
「ああ、まだまだだ。貴様の人生もキビシーだろ?まっくらけの夜中に分かってくるんだ人間は。」
「あの光はなんでしょう?」
アサビコが指を差して言った。
「あれか?あれなら、狐の行列の鬼火じゃろ。仲間の娘の婚礼で嫁入り行列をやってるのじゃよ。狐も祭りの好きな動物じゃ。」長老が煙草を一服付けて言った。
「人生は短…、やや!その銀紙に包まれた褐色のかぐわしいものは?チョコレート!」コントンボリはアサビコのポケットを覗き込んだ。
「そう、これはジジから貰ったんだ、いざという時の食料にと。」
「俺によこせば君を幸せにしてあげてもいいぞ!いますぐにでも!俺はチョコに目がないんだ!アサビコ君、俺の開いた口によこしたまえ。アーン。…でなければ黄泉は分からんぞ!」
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Posted By chancey on 2012年4月27日
No.45
「コントンボリはボーリ神の眷属だが油断のならん神じゃ、アサビコには後見が必要とみて、ワシが付いて行くことにした。黄泉へのショートスティてとこじゃな、ふふふ。」長老のサラガウラが言った。
「まったく、年寄りなど出る幕ではないぞ、黄泉というキビシー道のりが待ってるのが分からんか。」
「ふん、コントンボリよ、黄泉というのは、年寄りが行くところじゃ、たわけるでない。」
長老の声を尻目に、コントンボリはうそぶくように足を速めた。四人は一列になって踏み分け道を列車のように急いだ。
しかし、長老の足の達者なこと、逆にコントンボリがへばってしまった。
夜道は満月の月明かりに照らされて昼のように明るく、遠くの木のシルエットがはっきり分かるほどだった。四人は大きな岩の前に来た。
「はあ、この大きな岩の上で一休みしよう…。俺のような、お年寄りに慈悲のある神でよかったな、なあサラガウラよ。キビシー人生に休みは必要じゃろう?ところが、これがボープラ様ならゆるされぬ。」
「おあいにくじゃな厳しさ結構、ワシの人生は厳しく豊かじゃ。ははは、まだへばってはおらんぞ。棺桶に片足が入ったとて、一晩二晩なんでもないわ、ははは。」
岩の上は意外なほど見通しがきき、夜道の遠くに不思議な青い光がぼうっと見えていた。
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Posted By chancey on 2012年4月26日
No.44
「ワニ神の言うことは本当です。コントンボリが黄泉の国を知るので道案内を頼みなさい。今すぐにでも旅立ちなさい。…これを持って行きなさい、きっとコントンボリは言うことを聞き入れるでしょう。」
巫女は、掌に入るほどの小さなお守り袋とウィリという矢の形をした小笛を、アサビコに手渡した。アマナのお告げは、アサビコとコントンボリとに加え、木琴弾きの男を黄泉のヒラサカへと出発させた。
「俺様が小僧の道案内とは、ほんと、恐れ入るな。俺はボーリの眷属だぞ、そのくだらん聖なる笛さえ無ければ、小僧のいうことなどを聞くものではないが、それを吹かれると俺は弱い、それは…。まあ、それはそうと君たち、夜道に気を付けなさい、妖怪なども出るしアブナイからね。ヒヒヒ」
コントンボリはお茶を濁して、伝統的な服の裾を捲し上げ、三人を先導した。三人というのは、村の長老も同行したからだ。
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Posted By chancey on 2012年4月24日
No.43
「わ、われらの御子の身体は禿鷲に食われ復活しようにもすでに何も無い。魂は身体が無いと戻れない。
お、お前が魂を受けられたなら、われらは白い人は殺さない。戻らなければ、どこまでも追いかけ必ず全部殺す。
た、魂が戻れるまであと七日だ。それまでに戻れなければもう魂は戻れない。」
三筋の傷のある男が片言の喋りで言うと、アサビコが大声で答えた。
「ぜったいに戻ってきます!何があっても!」
深々とした被り物をしたアマナは一瞬アサビコの声にびっくりしたような態度をしたが、まさかと思い直したように杖の巫女に耳打ちした。
「ワニ神の魂が憑いてもワニになってしまうわけではない。また、あなたの命を失う分けでもない…。だが、今すぐにも黄泉の国のヒラサカまで行き、ワニの御子の魂復活の儀を行わねばならぬ。…その先はアマナ様にも何が起こるか分からないそうだ。」巫女がそう告げると、コントンボリが、後ろの三本筋の男達になれなれしくいるのを見てまた何かを告げた。
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