No.121 第三章 黒い力士

Posted By on 2011年9月24日

No.121
犬之介は油汗と恐ろしさが込み上げてきた。こんな筋肉隆々たる人間離れした怪人に勝てるのだろうか?
国安仙人が微笑んで側に来て言った。
「見かけはあんなだが、よく見てみなさい。あれは毘沙門天の別の姿です。」
「そうは言われても勝てる気がしません!」犬之介は震えていた。
「大丈夫です。思い出しなさい、貴方の記憶の彼方を…。貴方はあの男と互格に戦ってきたのですから。
ぶつかってみれば分ります。」そう言うと、犬之介の額に何やら指で描きなぞった。

途端に気を失いそうになった。
そのとき微かな記憶の扉から光が犬之介に漏れた。
…この男にひどい憎しみと怒りが感じられてきた。国を取られ、父母を惨殺され、娘を奪われた…。
自分が阿修羅となってゆくのが分かった。
「倒さなければならない男だ…。」犬之介は怒髪天を衝く形相に変わった。

About The Author

Comments

Comments are closed.